2024年11月に、山形県高等学校教育研究会からお声掛け頂き、「探究学習における学校司書と教諭の連携」をテーマに登壇。同僚学校司書のK先生と二人で行って、本校の取り組み紹介、連携の状況、山形の先生を交えてのパネルディスカッションをやってみるなど、自分の登壇としてはけっこう新しい挑戦になった。
 ここでは依頼された講演の詳細を報告する…のではなく、登壇のあとに出合った、山形市内のとある学校の授業実践について書いてみる。

 登壇後に後泊して山形観光の機会を得たのだけど、市内を街歩き中にある施設を見つけた。「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」(以下、Q1)。どうにも古い学校のような作り。看板の説明を見ると、大正・昭和の節目に建った山形市立第一小学校旧校舎を改装し、現在は様々なテナントが入る複合施設として再利用しているらしい。
 そこにはなんと…1949年の児童たちが作った、探究学習の作品が展示されていたのだ。(!)

たまたま出合った複合施設「Q1」(キューイチ)

 実は当初の目的地は山形県立図書館だった。最近リニューアルされたことを山形の先生方に聞いたのだ。荷物を山形駅のコインロッカーに預けたあと、適当にふらふら写真を撮りながら歩くなかで、たまたま目についたのが「Q1」だった。

 中を覗いてみると、旧校舎の中に雑貨屋、カフェ、飲食店、企業のオフィス…など、様々なテナントが。どうやら、昔の学校校舎を改装した複合施設のようだ。「Q1」という名称は、旧山形市立第一小学校、通称「旧一小」に由来。加えて「問いのはじまり」である「Question 1」の意味も。山形で「問いつづける」営みが活発に行われゆく場所…施設のパンフレットにはそのような想いが述べられている。なるほど、入っているテナントはアート、伝統工芸、食文化など、地域のさまざまな分野の商品やサービス、企画が扱われている。古きよき校舎を改装し、地域の新たなクリエイティブ拠点として位置付けたらしい。

紅花文庫の山形県教育史アーカイブ

 施設の中をぐるりと巡ると、「紅花文庫」と名付けられた一室を見つけた。昭和2年の校舎落成記念事業としてつくられ、大宝令以後の庶民教育の教科書、書類などを収集し、整理したのがはじまりだそう。目録も作成され、山形県下の教育資料として保存されている。
 そうした山形県の教育史に関する展示を見ていくと、唐突に、子ども自身による学習成果物が現れた。しかも、どうも見たことがあるような作品形式。なんと、かつて本校の中学生が取り組んでいた、手書き時代の「卒業研究」にそっくりだ1。子ども自身による手書きの表紙に、タイトルは『アゲハチョウのかんさつ』とある。

 勤務校の図書館にあれば、うちの中学生の作品と見間違えるだろう。しかも、驚くべきはその出版年。「昭和52年(1977年)」と記されている。他にも戦後すぐの作品から、平成に至るものまで。いずれも、児童の一人一人が興味を持ったテーマで探究した形跡が読み取れる。

昭和24年(1949)。生徒も先生も「探究」していた

 一連の作品群を一目見て、子どもたちの自由な発想による学びと、それを支援する体制が、長らく大切にされてきたことがよくわかる。生徒も一生懸命に、そして明らかに楽しんで学んだ形跡が見える。一番古いものでは昭和24年(1949年)の作品まで保存されている。これを見て考えざるを得なかった。戦後、図書館も整備されない中で、どうやってこれを書いたのか、指導したのかと。
 展示されている作品からは、各時代の指導の様子が伺える。「この記述は○○という本を参考にしました」「近所のお店に行って、お店の人に取材しました」とレポート内で示す児童。なんと2024年現在の本校生徒と同様に、図書館の本に学んで文献調査を行い、出典を示し、街に出てフィールドワークまで行っていた。作品に対する当時の先生方のコメントも、僕自身が担当する生徒に伝える内容とそっくりだ。一部引用してみよう。

 ノート二冊にびっしりと書き込まれた○○さんの研究は、その意欲がにじみ出ていて感心したが、それだけではなく、素直に自分の気持ちを出していること、そして、研究を通して自分自身が少しずつ変わっていった喜びがでていることがとてもよかった。

 アゲハチョウの成長の様子が表にまとめられていて、○○さんのこの研究だけで、1冊の本になりそうな研究である。

 誰でも乗車するときに使う切符を知りたいという気持ちから、研究を始めているが、規則に合わせて種類や様式を調べ、しかもていねいに図に表しているので根気のいる仕事だったと思う。又、切符の役割について考えてみるのもどうだろう。

 顔も知らない、ひょっとしたらご存命かどうかもわからない、75年も前の探究学習をめぐる、児童と先生の間のやりとり。その様子が鮮やかに目前に広がり、思わず胸が熱くなった。時代が変わっても、「興味を学ぶ」子どもたちの喜びや熱意、それを支援しようとする図書館や、先生たちの想いは、普遍的なものとして確かにそこに存在した。
 この実践は山形市立第一小学校内で「敬学会研究」と名付けられたようだ。「学びを敬う」ということで、その名称からも、生徒自身による自由なテーマ設定、文献調査、図書館での学び、フィールドワークといった一連の探究学習的な過程を重視していたことが伺える。「山形の先生たちに、ぜひ御校の取り組みを紹介してほしい」と請われて行ったのに、ふらりと入った複合施設に、なんと本校の取り組みに先立つ何十年も前の、児童の学びが展示されていたのだ。本当に驚きの出合いだった。

パッケージデザイン、メディア研究 … 子どもの興味は現代と何も変わらない

 現物が展示されている作品は十数点だったが、ふと脇をみると、「研究閲覧用」と書かれたPCが。どうみても古く、そして最近誰かが触った形跡がない…。それでも「これまでの作品をご覧いただけます」とある。どうやら敬学会研究には優秀作品を選ぶ校内コンテストがあり、作品がデジタルアーカイブになっているようだった。

 本当に動くの?と訝しがりながらも、PC本体とモニタの電源を入れてみると、コリコリコリコリ…とHDDが動く音が。BIOSが起動したので[F1]キーでOSを呼び出すと…Windows7のロゴが無事現れた。デスクトップの画面にはずらりと、昭和24年から平成にかけての作品がアーカイブされている。

 たとえば、「レッテルの研究」という作品を見てみる。いまでこそ「レッテルを貼る」というように、人を特徴づけるときに用いられる言葉だが、現在の子どもの言葉に置き換えるなら「ラベル」「パッケージデザイン」だろうか。本校でも毎年一人は出てくるテーマだ。当時の児童は、缶詰、菓子など、身近な商品パッケージを集め、切り抜いて分析。それを整理し、日本地図上に商品の販売会社ごとに配置。どの県にどんなパッケージが用いられているか、分析を試みている。すごい労作だ。小学生の作品とはいえ、現在となっては貴重なデザイン資料に見える。

 次に「ラジオの研究」。ラジオの仕組み、日本や世界のラジオ史、昭和26年当時の番組プログラム、受信機数の統計データなどを図書館の本で学んでいる。さらに、クラスメイトにアンケートを実施し、どのような時間帯にラジオを聴いているかを調査。学んだ知識をもとに、各種ラジオの自作にも挑戦している。豊富な文献の裏付けと、児童自身による製作・調査が熱い。メディア研究という意味では、勤務校の中高生もテレビやラジオ、Webの研究をする生徒は絶えない。当時から現在に至るまで、メディアやテクノロジーはどうにも子どもをひきつけるようだ。

 他にも「お手伝いの研究」「十姉妹の観察」「色彩の研究」「桶町と桶屋」「爪の伸び具合の研究」…など、子ども自身のユニークな発想による自由研究がアーカイブされていた。どれをとっても、パッと見て時代を感じさせず、現代の児童が作ったと言っても違和感ないテーマ設定や研究内容だ。何より分量や記述内容、フィールドワークからは、研究への熱意を感じた。興味があるから、図書館があるから、そのような学びを支援する大人がいるからこそできた探究学習だったのだろう。

 力作の背景にあったであろう、子ども自身の豊かな学びの過程と、それを見守る図書館や、学校の先生や、大人のまなざし。そんなことを想起しながら、気が付くと2時間も閲覧用PCの前に座っていた。帰りの飛行機の時刻が近づいていたので、名残惜しくもQ1を後にしたが、大阪への帰り路で頭から離れないのは、「あの作品は、実践は、いったい何なのか」という問い。まさにQ1で生まれた、僕自身の「Question1」だった。紅花文庫には作品展示こそあっても、授業や図書館支援の詳細は説明されていなかったからだ。

「研究が真に自分のものになる」ことを目指した敬学会研究

 さて、ここからは司書として、探究学習の授業担当者としての本領発揮。手に入れたキーワード「敬学会研究」、そしてそれを経済的に支援していた篤志家「佐藤昌二」氏の名などから、関連文献を探せそうだ。大正自由主義教育や、最初の指導要領の「自由研究」も関係しそうだとあたりを付けて情報探索。特に重要な以下2点の資料を見つけた。

・國枝裕子(2011)『間宮不二雄の学校図書館論:山形市男子国民学校の学校図書館実践に注目して』2

・山形市立第一小学校敬学会創設五十年記念事業実行委員会(1999)『敬学会研究:子供の自由な発想による研究五十年』3

 前者はWebに、後者は山形市立図書館に収蔵あり。今回の登壇でお世話になった、山形県立高校のI先生がコピーを送って下さった(感謝!)。これらの資料から、「敬学会研究」の経緯と実践を次のようにまとめられた。

【敬学会発足の経緯】

① 戦前戦後にかけて日本の図書館の興隆を支えた実業家、間宮不二雄。彼は学校図書館教育にも関心を持っており、山形市内のいくつかの学校で図書館経営や図書館活用の開発・指導を担った

② 間宮と友人関係にあった篤志家、佐藤昌二が、戦後すぐに間宮を第一小学校に招聘(佐藤は第一小学校卒業生)。間宮に対して図書館経営方法の開発と、図書館を活用する授業開発を依頼した。佐藤は同時期、第一小に寄付と図書寄贈も行っており、これが探究学習のための資料整備に充てられた

③ 昭和22年(1947)、文部省から最初の学習指導要領が公布。「自由研究」が教育課程上に位置づけられる。第一小では昭和24年(1949)に敬学会研究が発足

④ 指導要領「自由研究」は昭和26年(1951)の改訂により廃止されたものの、第一小は敬学会研究の財団法人化、校内コンテストの実施など、自由研究の実践を独自に維持し続け今日に至る

【実践の方法】

・「敬学会研究の手引き」と名付けられたテキストが配布され、児童は自主的に研究を進める

・児童はあくまで一人で、自由な発想により研究を進めた。授業では研究領域の近い生徒10名程度が一つの教室に集まり、児童どうしによる相互評価やアドバイス、切磋琢磨が行われていた

・児童の自由なテーマに対応すべく、目録作成では独自の件名ルールを考案し運用した。教科単元に応じた件名だけでなく、オリジナルの件名を複数付与していた。これにより生徒は、教育課程上で扱われることのない多様なテーマの資料を件名検索で活用できた

・指導は4月から10月までの約半年。テーマ設定や読書の重視、情報の出典の記載、児童自身による調査(フィールドワークや制作)を重んじるなど、ほとんど現代の本校の探究学習と同じ指導

 上記の経緯と実践の概要からもわかるように、敬学会研究は現代の探究学習と比較しても遜色ない体制を整えていた。戦後すぐの教育環境で、図書館と図書、自分の行動力を駆使し、これだけの学習を行った児童に驚かされる。自分の興味を学びたいという子どもたちの熱意と、図書館を使った自由な学びを支援しようとした大人がいたからこその実践だ。
 敬学会研究50年史では、子ども自身によるテーマ設定の重要性を何度も説いており、「研究が真に自分のものになる」「『この研究をして本当に良かった』という充実感と達成感を味わわせるためには、テーマ選びはとても大切」とも書かれてある。本校の探究学習が重視する、「学習のイニシアチブを子ども自身が握る」と全く同じだ。大人が先回りせず、子どもの自由な発想を見守り支援する。そのために図書館を整備する…。現代の探究学習指導にも通じる発想に支えられた実践だった。

新たな「Q」へ

 一方で、問いは新たな問いを生むもの。「敬学会研究」の全体像はつかめたが、さらなるQuestion 2・3… へと疑問は尽きない。たとえば2024年現在の敬学会研究はどうなっているのか。探究学習への機運の高まりでは、75年に及ぶ敬学会研究の実践こそ参照されるべきだ。しかしWebで探す限り、敬学会研究に関する近年の情報は多くない。
 また、こうした教育実践は他校に波及しなかったのだろうか。学校図書館法公布から70年以上、本来であれば第一小学校の実践は、広く学校図書館教育や探究学習の関係者で知られていてもおかしくないはず。このあたり、日本の学校図書館史・教育史に立ち現れた課題に思える。

 とはいえ本校の探究科と同じ「学習のイニシアチブを子ども自身が握る」という理念を、敬学会研究が1949年から大切にし続けてきたのは間違いない。探究学習の普遍的「よさ」とは、子ども自身が興味を学ぶ中で生まれる、「学ぶことは面白い」「学んでよかった」という肯定的学習観の形成に尽きる。大人はそれを見守り、支援するだけなのだ。
 流行りのメソッドに流されがちな学校教育において、指導要領改訂や、能力観の変容が何度もあった。その一方で、学校教育の傍流、一部の教員たちの間で連綿と続いてきた探究学習史の中に、いまの自分の実践がある。そんなことを思う、山形への旅路だった。

  1. 勤務校の探究学習は、2015年までは手書き・絵本綴じの調べる学習を行っていた。2016年頃から順次、それまで高校生のみに実施していた「卒業論文」形式を取り入れ始め、2024年現在は中学生もPCで論文を作成している。 ↩︎
  2. 國枝裕子(2011)『間宮不二雄の学校図書館論:山形市男子国民学校の学校図書館実践に注目して』
    https://www.nankyudai.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/142e71ff165ffd1b09edeb1ec838546d.pdf ↩︎
  3. 山形市立第一小学校敬学会創設五十年記念事業実行委員会(1999)『敬学会研究:子供の自由な発想による研究五十年』山形市立図書館収蔵 ↩︎